日本の建築界には門墩は開閉装置として伝承されていないようです。門枕は伝承され現在でも“唐居敷”の名称で活用されています。
福済寺にあった渦巻型門墩(右外側)
『支那建築装飾』(伊東忠太著 昭和16年出版)
江戸時代に福建省漳州市から長崎に来た人達が1628年に創建した福済寺に有りました。この門墩は彼らの郷里から運んでこられたので、日本で製作したものではないそうです。
残念ながら原爆で寺は全焼し、門墩も壊れ破片しか現存していません。
福済寺大観門にあった渦巻型門墩です。
画像1:右内側 (画像をクリックして 大きくなりますヨ)
円形部分に蜂の巣のが下がった松樹に双鵲・印鑑を枝に掛けよう
とする猿二匹・鹿と大変目出度い吉祥図が彫られています。
画像2:左外側
渦巻の傍に万病に効く霊芝が彫られています。
画像3:左内側
円形部分に竹と牡丹が生えた岩場に龍・鳳凰・亀・麒麟の四霊獣
が瑞雲に囲まれた目出度い吉祥図が彫られています。
避邪の獅子等霊獣が彫られた豪華な台座に乗った門墩です。
道教で渦巻は“天地万物を生じさせる”霊験あらたかなものなのです。
現在国内で確認している門墩は7組だけです。
一つは友好都市である福建省福州市から送られた沖縄市の福州園です。
画像1:沖縄市福州園の托日型門墩 (撮影:松浦克子さん)
もう一つは先の長崎市福済寺が台湾から取り寄せられた渦巻型です。
門の回転軸を受ける門墩本来の役目はせず、会館の入口を飾る役目を果たしています。厳密な意味では門墩とは言い難いでしょう。
画像2:福済寺の渦巻型の側面 (撮影:福済寺)
画像3:福済寺の渦巻型の正面 (撮影:福済寺)
三っつ目は天理市の天理教参考会館1階に展示されている台湾の廟にあった門墩です。(高:91cm 幅:24cm)
画像4:門の前に置かれた渦巻型
四っつ目は大阪阪急三番街北館B2の喫茶店「ロイス カフェシノア」入口に置かれていた物です。
これには門扉の軸を受入れる穴が彫られていないので門飾りとして作られたのでしょう。
画像5:「ロイス カフェシノア」入り口の抱鼓型
五つ目は京都市東山区鷲尾町の個人宅前に置かれている獅子型です。昭和初期に中国から輸入されたそうです。
後ろの門扉軸受け部分が無いので門墩であったかどうかは分からないそうです。
画像6:京都個人宅の獅子型
六つ目は三鷹市の個人住宅に置かれている抱鼓型です。以前中国の四合院に設置されていたのでしょう。
画像7:玄関に置かれている抱鼓型 上部に龍の子獣吻の頭部が彫られてます。
七つ目は鎌倉市の個人住宅に置かれている抱鼓型です。 雑誌に写真が載せられていました。
画像7:敷地入口に置かれている抱鼓型門礅。 上部に何が彫られて
いるのか写真では分かりません。中国では見たことのない珍し
い型の門礅です。
私は日本全土の事情は存じません。門墩を使用している所が有りましたらお教え下さい。
門枕は飛鳥時代に伝来し、現在でも“唐居敷”と言う名で使用されています。
奈良市の飛鳥資料館に河原宮の門枕石が展示されています。
同じ様な物が飛鳥の山田寺山門遺跡にもあります。
画像1:飛鳥資料館に展示されている河原宮の門枕石(唐居敷)
画像2:門枕石の使用方法説明図
門扉の回転軸を入れる穴を掘った自然石を門柱の側に埋め
込んで、掘られた穴に門扉の軸を入れて門扉を支いたのです。
画像3:山田寺の門枕石
“唐居敷”は神社仏閣建築では現在も使用されています。
現存する最も古い使用例は奈良東大寺転害門の木製の唐居敷です。
画像1:奈良東大寺転害門
画像2:門扉は破損して無くなり、門扉の回転軸を受ける穴は唐居敷に
残っています。 (赤丸が門扉軸を受けていた穴です。)
唐居敷は現在は格式の高い建物に全国的に使用されています。
横浜の総持寺の御成門を例示します。
画像3:大正4年に建てられた御成門
画像4:右側門扉回転軸をうける木製の唐居敷
第1章 日本 終