あとがき

          ―――(地方の独自性が強い中国)―――

『門墩を見ればその家の格が解る。』の言葉に魅かれて、1996年から二年半かけて北京旧城内の6,100余組の門墩全部を見て次の仮説を得ました。
  獅子型………………皇族
  太鼓型………………武官(有獅子=上級武官・有獣吻頭=下級武官)
  箱子型有彫飾………文官(有獅子=上級文官・無獅子 =下級文官)
  箱子型無彫飾………大富豪
  門枕石………………富豪
  門枕木………………庶民
 この仮説を立証しようと2001年に西安に行き調査しました。清時代の支配階級が住んでいた所は辛亥革命時に徹底的に破壊され残念ながら北京で得た仮説の正当性は証明できませんでした。
 しかし、西安旧城内には658組の門墩がありました。西安の門墩は形も彫られた模様も雰囲気も北京の門墩とは違っていました。
 北京と西安の大きな違いはショックでした。
 門墩が家の格を表す物なら、身分制度が厳しい明朝清朝代なら中国全土で同じ型式の門墩が使用されていると思っていたからです。
 そこで中国各地の門墩を観察する事にしました。2011年に黄河流域・長江流域・東南海沿岸地域とほぼ目標を達成しました。

 

 その結果、各地で聞いても「門墩は家の格を表す。」そうですが、中国は各地方の独自性が強い事に気が付きました。
 門墩の種類別に地域の相違を例示すると以下の様です。

 

獅子型では獅子の雰囲気  

   ①厳しいのは黄河流域       (画像1:山西省襄汾市丁村) 

   ②愛くるしいのは長江上流域   (画像2:大理市喜洲鎮彩雲街56号)  

   ③ユーモラスなのは東南海沿岸  (画像3:福建省泉州市古美術商)

 

円形の門墩で円形部分

   ①太鼓なのは黄河流域    (画像1:北京市城東区張自忠路3号)

   ②太陽なのは長江河口地域 (画像2:浙江省寧波市永寿街50号)  

   ③托日なのは長江中下流地区(画像3:湖北省襄樊市水鏡荘)

   ④渦巻なのは東南海沿岸   (画像4:福建省漳州市城隍廟) 

   ⑤蓮花なのは長江河口     (画像5:江蘇省蘇州市西園)

 

直方体の門墩で直方体

   ①箱なのは黄河流域     (画像1:陝西省西安市化覚巷48号) 

   ②板なのは長江河口地区  (画像2:江蘇省揚州市東圏門30号)

   ③柱なのは天津地方     (画像3:天津市楊柳青鎮大寺胡湾20号) 

   ④石鼓なのは長江河口地域 (画像4:無錫市第二泉)

   ⑤台座なのは長江上流域   (画像5:四川省楽山市郭抹若故居)

 

 さらに家の格を表すのに門墩でなく門罩(menzhao)を用いている地域があります。
 長江中流地区です。
 例示します。

   画像1:江西省景徳鎮汪宅

   画像2:安徽省池州太平山房

   画像3:江西省景徳鎮玉華堂

   画像4:安徽省黄山市潜口民居方泰文宅

 

 以上のように門墩の観察を通して広い中国では各地域が独自の文化圏(北京周辺・中原・長江上流域・長江中流域・長江下流域・福建周辺・嶺南)を形成している事に気付かされました。

 

                              2012年3月1日 在自宅